芸能界という巨塔・・・ 


私はあや。てつやさんの事務所「東京プロモーション」に所属するアイドル女優で22歳、160cmのB80W58H81のスレンダーなボディと色白の童顔とのアンバランスが非常に受けている充実した芸能生活を送っていた。
てつやさんの事務所は本名非公開厳禁とブログの推奨という厳しい部分はあっても基本的には給料面では羽振りが良くてつやさんの優しい性格に比例したあったかい事務所だった。
私は「めんどくさがり屋」の性格からブログは週1、2回更新にとどまった。てつやさんは「あやちゃんは僕の事務所一忙しく看板娘だけどできればもう少しブログを更新してくれれば・・・」と言っていた。確かにてつやさんのブログは1日1〜2更新という社長なのに更新率は優秀で見習いたいとは思っていた。

てつやさんの事務所は7ユニット16人が所属するお世辞にも大手事務所とは言えないちいさな事務所だった。
ただ先ほどの文中にもあった通り私はCM10社をスポンサーに持つ大エースでもあった。歌手としてはこの時勢で善戦しまた女優としてはテレビドラマ部門では「視聴率が取れにくいアイドル」という評価でも映画や1話完結のテレビドラマなら好評と充実していた。この私が「特Aランク芸能人」の評価でこれに続くのが「Aランク芸能人四天王」で内容は「でぶかわ」のお笑い芸人・かなこさん(23)、声優アイドルでアニメ主題歌が10万枚売り上げたゆうこちゃん(20)、グラビアアイドルで写真集が相当売れているゆきえちゃん(20)、それと新人でピアノ弾き語りができるえりなちゃん(19)が四天王だった。4人ともCMスポンサーが2社以上あり評価は高いのでAランク、となっていた。
あとの2ユニットはCランクで足を引っ張り気味で1つは元グラビアアイドルで「元祖ぶりっ子アイドル」のたまおさん(35)だった。けれど最近のたまおさんは体を張る仕事も多くなってきておりついこの前はコントで「泥んこ遊びをする小学生役」までやり童顔の可愛い顔まで灰色の泥んこまみれになって「ぷんぷん」と口では怒っていたけど笑顔だったという印象を私はうけた。
もう1つは10人からなる「お笑い劇団」の存在だった。
「お笑い劇団」は某関西大手お笑い事務所から金銭面でのトラブルから移籍したグループだった。てつやさんは得意の経理分野を生かし10人に納得のいく形で給料を支払っていた。
お笑い劇団の実力は地方、大都市の劇場での営業ドサ周りとそれを収録したDVDそれにピンでのテレビ出演、と実力はAクラスと言って相違なく現に関西の事務所ではそれだけ稼いでるのにぴんはねがひどく月によってはアルバイトで生計を立てるという不評の事務所だった。
でも2ユニットにない物、それはCMスポンサーだった。
CMは下手すると1本1億は事務所にスポンサーから支払われタレントさんにその1部がギャラとして貰える、という世界でたとえテレビ出演に出させて頂けても多くて500万、と言われるので如何にCMは大事か、が分かるのである。
あと、なやみがあってそれは移籍についてだった。現にてつやさんの事務所には私を移籍させませんか?の話が多々持ち上がっていたがてつやさんは黒字経営だから、とかの理由で丁重にお断りしていたがなにより熱心だったのが文中にもあった某・関西お笑い事務所だった。そこは私みたいな超・一流芸能人にはピンはねはせず湯水のごとく支給されるという評判はあったけどあそこは何かと不評が多くそれに東京生まれの東京育ちの私に大阪の文化は間違いなく合わない・・・と私は思っていたのであった。


10月の下旬。私の今日のスケジュールは朝は大手テレビの生情報番組出演、で夕方からはアニメ映画の試写会にレッドカーペット付で登場し実際アニメを観てそれから夜はテレビドラマでの打ち上げと帰宅は25時を予定していた。
でも・・・
私が意識が飛んだのは意外に22時位・・・それはドラマの打ち上げの時だった。
私は映画の試写会には紫のロングドレスで登場しファンの歓声を浴びて試写会へ。その後打ち上げには寒かったので紫のロングドレスの下に防寒用に、と黒のトレンカを履いて打ち上げに臨みそしてサワーを飲んだ、までは記憶していた・・・
ちなみにマネージャーさんとは試写会終了時に別れ、その時に「明日はお昼の12時まではオフでその後雑誌の表紙撮影と夜は六本木ヒルズでのファンクラブイベントがありますので、で明後日の日曜日は完全なオフですので。」と言われて久しぶりのオフに私のテンションが上がっていた所であった。

私はどのくらい寝ていたのだろう。
私は起きた時、目をこすり時計を見たら9時ちょうどだったので今日の仕事には余裕で間見合う、と思った。
でもなにか違和感が全身を包んでいた・・・
「あれ・・・ここは私の家の湯船・・・でもなんでここに・・・」
と言いながら目が完全に開いた。そしたら、
「えっ・・・どうしてお風呂が茶色なの・・・それにお水ではないししかも・・・う〜ん・・・抜けない・・・」そう、私は首まで茶色の物体に埋められた状態だった。
そして、右の方向に顔を向けた。その瞬間私は絶句した。
「どうしてここにお馬さんが・・・しかも4頭も・・・」
そう、私の風呂場は比較的広く、しかも湯船も一般家庭用よりも広かった。
それが災いしたのか4頭も馬が入り込んで洗い場のすべての面積を覆い尽くしていた。
「そ、そんな誰だろう・・・こんな悪質ないたずらしたのは・・・」
私は呆然とその場につくしそして左側の大きい鏡に視線をむけた・・・
「えっ・・・やだ・・・これ悪臭はするしまさか人工の肥溜めなの・・・?」
そう、私は鏡を見てそう思った。鏡に映っていたのは頭やほっぺたが茶色の馬糞まみれになっていた悲惨な私だった。
そして脱出するにも馬が邪魔で生命の安全を考えるとこのまま肥溜めお風呂に浸かっていたほうがいいと私は思った。
「それにしても・・・う〜ん・・・ぬるぬるべとべとで気持ち悪い・・・しかもクリーミーだし身動きが・・・」そう、いくら暴れても「グチュ、グチュ」と音はするものの粘着力がすごく身動きが取れにくい。そして・・・
「ぶりぶりぶりぶり・・・」と馬が平均して非情にも肥溜めに馬糞を落としていく・・・
けれど幸いにして湯船が広いので直接馬糞を浴びるという最悪の事態は避ける事ができた。
それから少し時間がすぎて今時計を見たら10時になっていた。
私は肥溜めお風呂に長く埋まっているので臭いはなれてきた。
「うんちまみれだけどあったかくて気持ちいい・・・」そうぬるぬる、べとべとだけど外は10月末という事もあって少し寒いのでこの言葉になった。
そして11時位。早く誰か助けて欲しいと思っていた。
そしたら、
「ガチャッ」と玄関が開く音がした。さらに、
「あやちゃん、どうしたの〜携帯かけても出ないから心配で様子見にきたんですけど〜」
てつやさんの声だ。
私は大声を出そうかと思った時だった。
「ぶりぶりぶりぶり・・・」と私の顔目掛けて馬糞が非情にも降ってきた。
「うぷっ」そう、私は目の周りを除いて顔面が茶色の馬糞まみれになってしまった。そして、
「うぷっ・・・うえ〜ん・・・」とあまりの悪臭に号泣してしまった。
その号泣のお陰か、てつやさんが風呂場に駆けつけてくれた。
「あやちゃん!今助けるから待っててね!」その励ましに私も小さく頷いた。
そしててつやさんが4頭の馬を退かして女性マネージャーさんが私を助けてくれた。
てつやさんが警察と救急車を同時に呼んでくれて、そして私にこう話しかけた。
「あやちゃん・・・かわいそうに。紫のドレスとトレンカを含めてみんなうんちまみれになっちゃたね・・・」そしたら、
「うえええん・・・てっちゃん、怖かった・・・」とまた大号泣してしまった。
そうてつやさんは42歳の小太りで童顔だったので若く見られやすいビジュアルでしかもてっちゃんと呼んでも怒られないやさしい人だったので頼もしかった。
「あ、そうだ。あやちゃん、今日のスケジュールのうち雑誌の撮影は先方さんの事情で来週の土曜日に延期になったから連絡したかったんだけど・・・」
「そうなんですか〜」と私は答えた。
そして警察の方と救急車が同時に来て私は救急車でてつやさんと共に乗り込んだ。警察の方はとりあえずマネージャーさんに任せていた。
その救急車の中でてつやさんがこう勇気づけしてくれた。
「僕の家内であるともみちゃんのお話になるんだけど・・・」
そうてつやさんは昨年元アイドルのともみさん(22歳)と結婚していた。ともみさんは童顔の笑顔が印象的なすてきな女性だった。
「実はともみちゃん、小学校5年生の時朝の8時に肥溜めに落ちちゃってその時は体操着+ブルマで全身はもとよりかわいい顔までうんちまみれで救出されるまでに10時間も経過しちゃったんだって。」
「そうなんですか〜」と私は感想を述べた。
「でもいまではともみちゃんの笑い話の一つだって(笑)」とてつやさんが言ってくれた。それに対し私は自然と笑みがこぼれた。そしててつやさんがこう言った。
「あやちゃん。ともみちゃんとは違い紫のドレス+トレンカだし薄めの衣装だったともみちゃんと比べると大丈夫だし。それにうんちまみれのあやちゃんもかわいいしこれで『運気』が上がるといいね。」
「くすくすっ。もう、てっちゃんたら。」とこの瞬間2人とも笑っていた。
この日の病院の検査では怪我はどこもなく無事だったと医者から告げられ六本木ヒルズのイベントは予定通り行われた。
そしてこの事件は結局12人にも及ぶ逮捕者が出た。
罪状は住居侵入、傷害、名誉毀損の3つだった。
12人は某関西お笑い事務所に所属する売れないアルバイトもする中堅芸人で現場での責任者は一流でも漫才のは疑問が出る女性の太めの3人組だった。
さらにこれが会社の組織ぐるみだと判明しその事務所の会長は潔く記者会見を開き、謝罪と会社そのものからの勇退を決意し警察もこの会長は書類送検にするにとどまった。
今回の事件は正に「芸能界という巨塔」の名に相応しい策略と野望に満ちた象徴的な出来事だった。
そして私はあの「うんちまみれ」になったせいか「運気」が上がりこの翌年念願の紅白歌合戦に出させて頂ける事になるなどより充実した芸能生活を送る事が出来たのであった・・・



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