モデル体験記(10)


今日明日が最後の撮影。なんだか寂しい。もっとずぶ濡れになりたいくらい。
まず朝現場に行くといきなり池に潜らされ、全身ずぶ濡れにされた。それから打ち合わせ。今日はひなさんと二人で町中を歩くようだ。ずぶ濡れで。いくつかのチェックポイントである公園を回り、公園の水道や噴水で濡れ直し、また歩く。そういう企画だ。
早速池に潜り濡れ直したところで撮影開始。まず私がひなさんのずぶ濡れ姿を映しながら歩く。ここらへんはまだ人の姿も少ないけれど、霰もない姿の二人はやっぱりすれ違う人の注目の的だった。
交代して撮影される側に回りしばらくして最初のポイント。掃除用の洗面台で蛇口からの水を直接頭から浴びることができた。しっかりずぶ濡れに戻るとまた歩き出す。人も増えてきた。夏の日差しは服をすぐに乾かしてしまう。私たちは道沿いにあるチェックポイントとは別の公衆トイレでまた水を浴び、濡れ直した。
ついに町中に入った。異様な姿の二人は多くの人の注目を集めた。裏通りに入り、監督のワゴン車が止まっているのを確認すると、そこでバケツの水を貰う。ひなさんはたまたま通った男子中学生に声をかけ、戸惑う彼を説得し、まずはひなさんにバケツの水を浴びせてもらい、その様子を撮影。続いて私。彼がゆっくりと浴びせてくれたお陰でじっくりとそのバケツの水を味わうことができた。お礼にお小遣いの1000円を渡し、空のバケツを車に戻してまた歩き始めた。しばらくまた注目されながら歩き、大きな噴水公園に出た。休日だけあって沢山の人がいた。早速噴水に向かってあるき、まず私が噴水に入った。とりあえず潜って、次に流れ落ちる水にもたれて浴びる。バケツ1杯程度なんてすぐ乾いちゃうから服にとってはたっぷりの水分補給になった。あがってしばらくひなさんに濡れ姿を撮ってもらい、水滴がある程度落ちるとまた噴水に潜りすぐにあがった。続いてひなさんの撮影をした。私と同じように撮ると、最後に二人で噴水に潜り、そのままの足で歩き始めた。
しばらくチェックポイントを回りながら歩き、また先回りした監督のワゴン車にバケツの水を貰う。今回はひろしさんがワゴン車の窓から座ってる私にたっぷり2杯浴びせてくれた。続いてひなさんにも2杯。ビチョ濡れに戻ってまた歩きだした。
最後のチェックポイントは沼だった。あの冬の寒空の下ひなさんが自ら泳いだような演出のあったあの沼だ。腐乱臭とゴミ、コケはあの映像のままだ。ひなさんは沼の反対側に回り、泳いで渡ってきた。まとわりつくゴミを途中立ち泳ぎで払い、ひなさんは深緑色に染まりながらあがってきた。
「ひなちゃん、くさいよ〜」
「へへ・・・彩夏さんもこのくさいのに染まるんだよ?」
私はなぜかこみ上げてくる興奮を宥めながら早速池に入った。私は一往復することにした。真ん中あたりで潜る。髪にゴミとコケがまとわりついた。少しヌルッとした沼の水はツンとくるにおいを鼻の奥に植え付けた。まず岸に着き、濡れ乱れた服を直すとまた泳ぎ始めた。たっぷり潜水で泳いだ。目は開けられない。感覚でゴミをかき分けながらすすみ、なんとか顔を出すとひなさんのところからは少し離れていた。もちろん沼の中を泳ぎ、ひなさんのところに戻った。
「彩夏さんくさーい!」
「ふふっ、気持ち悪いね、これ。」でも私の表情は明るかった。
ゴールの現場まで戻り、しばらくそのくさいままで監督に撮影の感想を撮ってもらう。そして撮影終了。
ひなさんと服のままお風呂に入ったけど、べっとり汚れた服は捨てるしかなかった。においを取るためしっかりと洗い、新しい衣装を着て出た。
今日の撮影は終わり。映像チェック恒例のバケツ浴びをしてまたずぶ濡れ。
もうすぐこの撮影も終わって、やっぱり寂しい。最後は盛大にやってくれると言っていたけど、何をされるんだろう。とりあえず私は濡れた服のまま夜まで過ごした。




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