モデル体験記 (2)


そのホームページには、セーラー服でびちょびちょに濡れている女の子の写真と、『あなたも女優になりませんか』というメッセージが添えられていた。

女優。
幼き日に思った夢だ。父の趣味で連れられて小さな劇団が小さな舞台でやる真剣なお芝居に夢中になっていた。今では淡い記憶でしかない。
でも、もう私は縛られない。『女優』。年齢的にもチャンスは今しかないかもしれない。
ただ、現実的に考えて、AVまがいのことをされるかもしれない。体を触られて、無理矢理させられるなんてことも・・・何しろ、検索してわかったが、監督はやり手のAV監督。裸にされて、抵抗できない状況に、ということもあり得る。だからメールでやりとりはして確認した。確認する限りでは、そういった行為はないとのことだ。ただ演出上少し女性(あのびしょ濡れのかわいい子が共演するらしい)が体に触れることがあるらしい。まぁ、女性なら・・・

ファミレスで軽い打ち合わせで、服のサイズ等をきかれた。すぐに衣装を古着屋に買いに行き、監督の指示で自分の好みのものを選ぶようにいわれ、シャツやデニム、ロングスカートなどをセレクトし、監督が買った。1週間後の撮影まで着て、自分で洗濯することを指定された。しかも、なるべく破らない程度に傷めつけてという指定までされ、洗濯代として報酬(ギャラ?出演料?)とは別にと2000円を渡された。


そして、撮影一日目。
着たのはなんとセーラー服。監督が用意したらしい。でも、なぜか新品ではなく、何度も念入り洗って新品特有のサラッとした感じを失い、寧ろすこし傷んだ感じになっていた。
セーラー服に袖を通したのは何年ぶりだろう。高校はブレザーだったから、10年ぶり!?中学生以来。なんだか着るだけで恥ずかしい。しかもこれを濡らしちゃうわけだから、あーもう、ドキドキしちゃう!
写真でびしょ濡れになっていたあの子がやってくる。写真の印象と同じで幼い感じがした。でも、年は21歳らしい。
「彼女、どこかで見たことない?」
監督が聞いてきた。私がホームページのトップの写真の子ですよね、というと
「いや、ほら、テレビとかで。」
テレビはニュース以外はほとんど見ないというと、女の子はなぜか笑顔になり
「それは良かったです。余計な気使わんでええわけですから」
と、少し関西訛りで言った。

すぐにずぶ濡れになるのかと思ったら、簡単なアンケートからやるらしい。
監督がまず聞いてきた
「芸名とか、なにかある?」
「アヤカっていうの、どうでしょう。」
私の本名は寛子(ひろこ)一文字もあわず、できるなら3文字がいいし、何となくかわいい名前だと思っていた。実際ブログのハンドルネームに使ってたし。
「あやか・・・いいですねぇ。字とかはあります?」
「色彩のサイの字に、夏です。」
「彩・・・夏・・・はい、あ、なるほど」監督はメモに書きながら言った。
「そろそろ撮影どうですか?ひなさんお待ちかねですよ。」
男性が近付いてきて言った。小太りではあったがかなりイケメンだった。
「ああ、そうだな。それでは、あ、彩夏さん、こいつは撮影スタッフのD(ディー)。」
「Dさんって呼べばいいですか?」
「はい。よろしくおねがいします。」Dさんははにかんだ笑顔で言った。
「あれ、ひろしは?」監督が言った。
「そこで機材の準備してますよ。固定カメラ2台と照明のチェックです。」
「そうか。」
みると細身で背の高い男性がカメラの位置を微妙に動かしていた。そして終わったのか、近付いてきた。
その顔に一瞬、えっ!?と驚きを感じた。見覚えがある。そうだ、あのプロジェクトに多くの出資をしてくださった、若くしてIT会社社長をしている飯島さんだ。
「あれっ?杉原さん!?」
「あ、やっぱり飯島さんですね!?」
「うわっ、まいったなぁ、・・・あれ?何でこんなところに?しかも、女優さんで、ですよね?」
はっとした。今私はセーラー服を着ている。恥ずかしい!穴があったら入りたい!!
「あ・・・」
私は顔が熱くなるのがはっきりとわかった。でも、同時に飯島さんの顔も赤くなっていた。
「なんか、恥ずかしいっす。自分の性癖バレるって。」飯島さんは独り言のように言った。
「あ、私も・・・この格好・・・。」
「あ、でも、会社は・・・?」
飯島さんのその言葉で私は少し醒めた。
「あ、クビになっちゃいました。」私があっさり言うと、飯島さんは驚いた顔で
「えええーーっ!!うっそぉーー!なんでですか!?こっちはあなたの仕事っぷりには驚かされっぱなしだったんですよ!?引き抜きたいくらいだったのに!」
「あ、ありがとうございます。でも、私はもうOLに戻る気はないんです。」
「そうですか・・・」

「なんだなんだ?ひろし、知り合いか?」
監督がからかうように言った。
「いや、取引先の・・・」
「『元』社員です」私は付け加えていった。
監督は、へぇー、世の中狭いもんだな、と笑っていた。

今私はプールサイドにひなさんと並んで別々の椅子に座り、撮影スタートを待っている。ただ待っているのも暇だから、少し雑談をしていた。聞くところ、ひなさんは元アイドルだったらしい。ううーん、世間に疎いのかなぁ。私。

さぁ、撮影開始だ。
「彩夏さん、ひなちゃん、今日はよろしくお願いします。」監督が言う。
「おねがいします。」私とひなさんはほぼ同時に言う。
「これからずぶ濡れになってもらうけど、どんな気分?彩夏さん。」
「えっ、あ、スゴク緊張してます。」
「ひなちゃんは?」
「わくわくしてます!」
「彩夏さんは濡れた経験はありますか?」
「プライベートでは雨で濡れたことしかないですけど」
「じゃあ、バケツの水とかシャワーとかを浴びるたり、服のまま泳いだりとかっていうのは」
「ないですね。全く。」
わざと衣服を濡らすということはしたことがない。ていうか、ふつうに生きていれば実生活でそんなことは絶対にしない。
「ひなちゃんは?」
「そら、毎日のように。」
そうか・・・ここではそっちの方が普通なんだよなぁ。
「では彩夏さん、いきますよ!」
「えっ、あっ、はいっ!」
Dさんがバケツの水を叩きつける。冷たいと思って身構えたけど、ぬるま湯だった。私のセーラー服は前面だけが濡れて、いくらか滴り落ちていた。濡れた服のピタッと張り付いた感じが気持ちいい。次にシャワーが用意され、ひなさん側から私めがけてシャワーが降り注ぐ。服は一気に色が変わり、背中も濡れていることが感じ取れた。髪も流れるように垂れ、顔に張り付いた。ひなさんはしぶきで少し濡れたが、物足りなさそうな、そして私の濡れ姿を羨ましそうに見ていた。
シャワー攻撃の途中で背中と服の間にホースを入れられそのまま水を流し始めた。さらにDさんは監督にシャワーを預け、バケツ攻撃を繰り返した。全身びっしょびしょ。
すべて私を囲っていた水を出すものがとめられると、Dさんとひろしさんは私が座っている椅子を私ごと持ち上げ、プールぎりぎりまで運ばれた。ひなさんも同じように運ばれた。ひなさんは相変わらず乾いた服のままだった。
「ひなちゃん、どういう気分?」
監督が聞いた
「彩夏さんが羨ましいです。私も早く濡れたい!」
ひなさんは少しイラついているようだった。じらされているからだろう。
「彩夏さん、どう?」
「気持ちいいです。」私は濡れた服をパタパタはたいてみせた。水滴が飛び散った。
「じゃあ次の行程に移ろう」
監督がそういうと、しっかりとスーツを着たDさんとひろしさんはプールに飛び込んだ。私は少し驚いた。てっきりスタッフは水泳パンツに着替えると思っていたからだ。
「あの、ちょっといいですか?」私は監督に聞いた。「何でスタッフさんまでスーツなんですか?」
「え?ああ、彼らも濡れ好きだし、万が一男の裸が映ったら見栄えが良くないからだよ。当然私もこのまま入る。」
監督もジーパンに長袖シャツと上着を着ていた。
「時間があいたから水が落ちちゃったな。彩夏さん、悪いけど」
監督はそう言うと、シャワーを私の頭の上から浴びせた。1分くらいでまた撮影開始。
監督の指示で椅子にもたれる。足をはなせば椅子ごとプールに真っ逆様だ。
そこから先に落ちた方が負けのチキンレース。勝った方には次の撮影の主役権が手に入るらしい。ひなさんにはハンデがある。濡れたくて仕方がないはずだ。私も重たい服がバランスを乱す。
開始早々ひなさんが落下し、つられるように私も椅子ごと背中からプールに落ちた。私は体制を整え、髪を直すとカメラを持ったDさんと、うつされているひなさんに近付いていった。

数歩歩くだけなのにかなり体力を使う。疲れた。しばらくプールの中でひなさんと水を掛け合うと、ひなさんが先に水からあがった。大量の水が流れ落ちるのを見た。ひなさんはひろしさんにポーズをとったりしていた。かわいらしいなぁ。さすが元アイドル。私をとるのはDさん。私は一度潜って頭の先まで濡らした後、ゆっくりと上がった。私からも水が大量に滴り落ちる。股の間から流れ落ちる水がなんだか恥ずかしく、内股で座り込んでしまった。髪がペッタリ顔に張り付いていたが、恥ずかしさで顔が熱かったからしばらくそのままでいた。よくよく考えてみると服はものすごく重たかった。
しばらくしたら撮影終了がかかった。私は更衣室に入り濡れた服を全部脱ぎ、隣のシャワールームで軽く流した後、着替えてソファで横にならせてもらった。ずいぶんくたびれていて、髪もまだ湿っていたけど、眠ってしまった。 


30分位で目が覚めた。髪はボサボサで、疲れはとれたが、とても人には見せられない顔だ・・・
と、都合の悪いことにひろしさんが入ってきた。
「あ、杉・・・・彩夏さん」
「あ、はい。」
「監督が追加のシーンを撮りたいらしくて、もう一度セーラー服、お願い・・・できますか?」
「あ、はい。わかりました。」

更衣室の外にある脱衣かごの中に置いておいた濡れたセーラー服はまだその濡れたままで置いてあった。更衣室にあったバケツに水を汲み、セーラー服を漬け、服を脱ぎ、なるべく水を落とさないように着る。濡れた服がまたビタッと張り付く。服を漬けていたバケツの水で顔を洗い、残りの水を頭から浴び、プールへ急ぐ。監督が待っていた。
「おっ、早速ずぶ濡れだね。やる気満々かな?」
はぁ、と私がいうと、監督は私をシャワーの下につれてきた。私と同じようにずぶ濡れのひなさんが立っていた。ひなさんと背中合わせに立ち、ひなさんと腕を組んだ。
「僕の指示があるまでシャワーからでないでね」
監督がそういうと、滝のようなシャワーが降り注いだ。ひなさんは腕をほどき、置いてあったバケツで私にさらに水を浴びせた。同時に横からDさんとひろしさんが私たちに向けて水を叩きつける。もう全身びっちょびちょ。息がしづらい・・・
しばらくするとシャワーが止められた。
「ありがとう。もう大丈夫だから、着替えて夕食にしましょう。」

知らない間に夜になっていた。プールサイドにお弁当が用意された。私は着替えようと更衣室に戻ろうとしたら、ひなさんや監督さんは濡れた服のまま食べているのが見えた。私もそうした。ずぶ濡れのままご飯を食べるなんて、こんな時しか体験できなさそうだから。

着替えていると、
「明日朝早くにどこか出かけるらしいんですけど、うちに泊まりません?鍵ついてる部屋ありますし。」
と、ひなさんが言った。
クタクタで今すぐにでも寝たかった私はそれに従うことにした。

ひなさんと監督の家はとても広かった。何人住むのやら?と思ったけど、2人暮らしに間違いないらしい。
化粧を落として部屋にはいるとすぐに眠ってしまった。明日は6時起きらしい・・・


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