モデル体験記 (1)


その女性はすでに顔面にたっぷりとクリームを付けていた。映像はそこから始まる。
「じゃあ、シャワーですけど、いいですね?」
「ん。」
シャワーが女性の頭の上から降り注ぐ。髪は一気に濡れ、徐々に顔のクリームが流れ落ちる。きている夏のセーラー服もびっしょりと濡れてきた。
顔は見覚えがあるというレベルではなかった。一時期超人気を誇ったアイドル、水沢陽菜だった。
「お名前は」
「ひなです」
「水沢陽菜さんではないですか?」
「違いますー。うち、めっちゃそれで被害受けてましてん」
「別人なんですね」
「同級生からもアホほど言われましたわー。そっくり過ぎるて」
「生き別れた双子のお姉さんとか」
「そうそう、幽体離脱ぅーってちゃうがなー!」
「・・・」
「なんですかその沈黙?どうせのりつっこみ下手ですわぁ!」
「でも、顔だけじゃなく声も似てますよ」
「だからイヤやねんて。あっちが勝手に水かぶってずぶ濡れになるもんで、勝手な妄想で水かけられてんねんで!まぁ、好きは好きやけど」ひなと名乗る女は苦笑いを浮かべた。
そういってる間もシャワーは「ひな」の身体を濡らし続けていた。

・・・・・・・・・


私の本名は鳴沢ひな。この名前は昔は嫌いだった。いつまでたっても雛で、大人になれない、そんな名前だ。今となっては、ピーターパン気分で気楽になったけど。
アイドル時代は水沢陽菜(みずさわはるな)と名乗っていた。水は生命に必要不可欠なものだから、あなたの必要不可欠なものになりますようにという意味で社長が入れた。陽菜、これは読み方によってはひなに読める。だからこの名前になった。
あの頃、本性のほかにもう一つ隠していたことがある。それは関西弁。もともと関西出身ではないのだが、一昨年死んだ父も、昨年あっさり再婚した母も関西出身だったため、いつの間にかうつってしまったのだ。でも学校では標準語。そんなかんじだった。

今の職業はWAMモデル。ふつうそういうのは本名ではでない。源氏名というかモデル名というか、そういうのを使うのが一般的だ。でも私は本名。なぜなら、昨年私は結婚したからだ。あっ、そうか。今は名前が嶋野ひなになってるか。子供は、まだ未定。旦那は、監督である。やり手のAV監督で、WAM監督は趣味の一つである。私のすべてを知る理解者であり、すべてを話せるパートナーである。年の差は10歳。だけど年の差なんか関係ない。私は、この人が好き。
それに、WAM関係のことならば、なにをされてもかまわない。真の私の姿。それがWAMモデル。

そうこうしているうちに全身びっしょびしょに濡れた。今日はとりあえずそれだけ。今回はサンプル映像とサンプル写真だ。次回とるときにはもう一人モデルが必要になるらしい。

モデル募集がうまくいかなかったら私が一人で出ることになる。演出家の旦那としては不本意らしいけど。

今私はずぶ濡れ。旦那が濡れ好きで私も濡れ好きだから、最近は毎日のように濡れている。いわば‘制服’だ。ずぶ濡れは私の一つの衣装。ちょっとしたアクセサリーを付ける感覚で水をまとうのだ。私が一番映えるアクセサリー、それが濡れた服と滴る水滴だ。

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