アイドルの楽しみ 1

スカウトを受けて2ヶ月後、最初の仕事が決まった。アイドルだらけの水泳大会。まさに醜い争いの起きそうなステージだ。
私の芸名は「水沢陽菜」に決まったことが会場に行く前に伝えられた。「水」の字が入っていることが少し嬉しかった。
私は勿論勝つ気も笑いに貪欲になる気もなかったが、まぁ流されるまま進行に身を任せていた。
ここで私は不思議な女と出会った。彼女の芸名は真奈美(本名は未だに知らない)。真奈美は私の態度をすぐに見抜いた。勿論私は真剣にリアクションをとっていたし、勝ったら本気で喜んでいるという演技も、主催者側が喜ぶ感じでしていた。ところが、
「あたしと同じだね。そういう斜に構えた演技」
まるっきり見透かされた。これは面白い。『あたしと同じ』。まさか同類がいるとは思わなかった。似たもの同士、真奈美はこの世界の唯一の友達になった。真奈美は将来AV女優になりたいと言っていた。というか、AV女優は真奈美にとって『運命づけられた職業』だといっていた。
いよいよ私が一番やりたかった競技がきた。水中早着替え。服のままプールに飛び込んで、別の服でプールから上がる至福の競技だ。
セーラー服でプールに飛び込む。ふわふわっと優しく肌をなでる布が心地よい。
真奈美も同じだった。ふと見ると先ほどとは違う満面の笑みを浮かべていた。ずぶぬれでプールから上がる。結果?さぁ、競技に興味なかったから覚えてないや。

「私はこれ以外にはメディアには出ないから。」
真奈美はそういった。
なぜか聞くと、「ほら、元アイドル、AVデビューって箔がついて、『当時のお宝映像』みたいなのが出て注目されるじゃん。」
なるほど。真奈美らしい戦略的な考えだった。

「それじゃ。またいつか。」私がそういうと連絡先を交換し、別れた。

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